日本語学校の設立や認定申請を検討する中で、しばしば混同されがちなのが「留学のための課程」と「就労のための課程」の違いです。
「うちの学校は“就職コース”だから、就労課程で申請するべき?」
「特定技能を目指す学生が多いから、“就労のための課程”を選べばいい?」
——こうした相談を多く受けますが、実はこれは大きな誤解です。
この記事では、制度上の定義にもとづきながら、「留学のための課程」と「就労のための課程」の本質的な違いを解説し、申請時に混乱しやすいポイントを整理します。
制度としての「課程」の違いとは?
留学のための課程とは?
「留学のための課程」とは、海外から日本に渡航し、日本語を学ぶことを目的とする外国人が在留資格「留学」を取得するための、日本語教育課程です。
この課程で認定を受けた教育機関でなければ、出入国在留管理庁による在留資格認定証明書(COE)が発行されず、留学ビザの取得ができません。つまり、「留学のための課程」は、日本語学習を目的として来日する外国人にとっての“入り口”となる制度的な前提です。
対象となる主な学生
- 母国から「留学」ビザで来日する外国人
- 進学(大学・専門学校)や就職(特定技能・技人国)を目指しているが、まず日本語力を身につける必要がある人
校内で「進学コース」「就職コース」など教育内容を分けている場合でも、いずれも「留学のための課程」に属する点に注意が必要です。
就労のための課程とは?
「就労のための課程」とは、すでに日本国内に在留資格を持ち、就労または生活している外国人を対象にした日本語教育課程です。
この課程は、ビザの取得や延長に必要なものではなく、あくまで日本語学習の機会や定着支援を提供する“学びの場”として制度化されています。
対象となる在留資格の例
- 特定技能
- 技能実習
- 技術・人文知識・国際業務
- 日本人配偶者・定住者など
課程の内容例
日本で働いている外国人を対象とした教育であり、実施方法や学習時間などが比較的柔軟に設定できます。
- 職場での円滑なコミュニケーション力の習得
- 業務上必要な日本語表現・語彙の強化
- 長期的な定着やキャリアアップを支える語学スキル
実務に使える実践的な内容を学習するのが特徴です。
留学のための課程と就労のための違い
- 「留学のための課程」は、これから日本に来る外国人のビザ取得に不可欠な制度的基盤であり、認定を受けた教育機関でのみ受け入れが可能です。
- 一方「就労のための課程」は、すでに日本に滞在している外国人に対する補完的な教育制度であり、在留資格の取得には直結しません。
そのため、「課程を受けたからビザが取れる/延長できる」というような関係性があるのは「留学のための課程」のみです。
就職コース=就労のための課程ではない
制度目的の違いを理解する
「就職支援をしている学校だから“就労のための課程”にすべき」という声をよく耳にしますが、これは制度の構造に対する誤解です。
実際には、学生が“就職を目指しているかどうか”と、“どの課程で認定を受けるべきか”は直接関係しません。
たとえば、特定技能を目指す学生が多い日本語学校であっても、学生が在留資格「留学」で日本に来ているのであれば、その学校は「留学のための課程」で認定を受けなければなりません。
逆に、すでに技能実習や特定技能などの在留資格で日本に滞在している外国人に対して語学研修を行う教育機関であれば、「就労のための課程」としての認定が適しています。
「在留資格」と「課程区分」はセットで考える
制度的には、学生が持つ在留資格が、どの課程で受け入れるべきかを決める基準となります。
学生の在留資格 | 学生が在籍する日本語学校 |
---|---|
留学 | 留学のための課程(認定必須) |
技能実習、特定技能など | 就労のための課程など |
定住者、日本人配偶者等 | 生活のための課程など |
「進学コース」「就職コース」「特定技能対策クラス」など、教育内容の呼び名は、制度上の課程区分とは関係ありません。あくまで、“どの在留資格で滞在しているか”が基準であり、それに基づいて適切な課程を選定する必要があります。
各課程の認定を受けるメリット・注意点
留学のための課程のメリット
この課程の認定を受けていないと、在留資格「留学」での外国人学生の受け入れはできません。
出入国在留管理庁が発行する「在留資格認定証明書(COE)」の申請条件となるため、海外から学生を迎えるためには必須です。
留学生の受け入れが可能になることで、安定した学生数の確保や進学・就職支援を前提とした教育課程の展開が可能になります。
就労のための課程のメリット
現時点では、就労のための課程の認定がなくても、在留中の外国人に日本語教育を提供すること自体は可能です。
ただし、今後制度が整備され、企業や自治体との連携、助成制度などが生まれる可能性があるため、制度的な認知を得ておく意義はあります。
また、学習ニーズが明確な社会人層への教育として、実践的・専門的な日本語教育の場としてブランディングしやすくなります。
既存の告示校の皆様へ:認定申請において複数の課程(例:留学のための課程+就労のための課程)を同時に申請し、一方のみが認定された場合、「留学のための課程」が不認定となると、告示が抹消される可能性があります。結果として、留学生の受け入れができなくなるリスクがあるため、申請の順序や方針は慎重に検討する必要があります。
まとめ|課程の選択は「目的」と「学生の在留資格」から
「就職支援に力を入れているから」「特定技能向けの内容だから」という理由だけで「就労のための課程」を選ぶのは危険です。
重要なのは、どのような在留資格の学生を受け入れるのか、そしてその学生に対してどのような教育目的を持つのかという2点です。
とくに、留学ビザで来日する学生を対象とする場合は、「留学のための課程」での認定が必須です。
制度の枠組みと実務上の運用を正しく理解し、誤った課程選定によるリスクを避けるためにも、申請前の十分な整理と確認が求められます。
日本語学校の設立を本格的に検討されている方へ
認定制度に即した設立準備や申請の流れについて、
専門コンサルタントが無料でアドバイスいたします。