日本語学校は、語学スクールや専門学校の延長線上にある事業ではありません。
実際には、教育機関であると同時に、留学ビザという「在留資格制度」の一部を担い、国際人材市場や行政監督(文科省・入管)とも強く結びついた、極めて特殊な構造をもつ産業です。
こうした制度的な枠組みの上に成り立つため、書類審査・学校ランク・学生募集・在籍管理・人員配置など、運営のあらゆる場面において高い専門性と精度が求められます。この構造を理解せずに参入すると、COEの不交付や募集難、人員崩壊、行政指導といった深刻な問題に直面しやすくなります。
本記事では、新規設立を検討する方に向けて、日本語学校運営で特に注意すべき“6つの構造リスク”をわかりやすく解説します。
リスク① COE(在留資格認定証明書)の壁
日本語学校の運営で最も重要な要素の一つが、留学ビザ取得の前提となる COE(在留資格認定証明書) です。
COEが発行されなければ学生は来日できず、学校の収益にも直結します。
しかし審査では、学歴・経歴の整合性、日本語能力、資金の裏付け、生活支援体制など多岐にわたる項目が確認され、必要書類も10種類以上に及びます。
わずかな不備や説明不足でも不交付となるため、学校側には高い書類精度と管理体制が求められます。
特に注意すべき点は、「学校のランクによって提出書類が異なる」という構造で、新規校は単に“実績がないため書類免除が一切ない” という不利な状態にあるだけで、審査自体が厳しくなるわけではありません。
しかし提出資料の量が多い分、書類精度や管理体制が整っていないと不交付が増えやすく、運営に大きな影響を及ぼすリスクがあります。
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リスク② 学校ランクが許可率を左右する構造
COEの審査は学生個人の属性によって行われますが、実務上は 学校のランク(告示校区分) が許可率に大きく影響します。
入管は告示校を「適正校クラスⅠ・クラスⅡ・非適正校・新規校」に区分しており、このランクは不法滞在者や行方不明者などの割合によって決まります。
ランクが高い学校ほど提出書類が大幅に免除され、確認されるポイントが減るため、結果としてCOEが通りやすくなる構造です。
一方、新規校は実績がないためランクが付かず、すべての書類をフルセットで提出する必要がある ため、書類量・作業量が多く、手続き負担が重くなります。
学校の管理体制が直接許可率に影響する点は、見落としがちな重要リスクです。
リスク③ 学校の二極化(募集力の格差が生まれる構造)
外国人留学生の多くは、現地の留学エージェントを通じて学校を選びます。
エージェントは、学生が実際に入学してはじめて手数料を得られる仕組みが一般的で、途中退学があれば返金義務が生じる契約も多く存在します。
そのため、COEが安定して交付される学校、学生が定着しやすい学校 を優先的に紹介するインセンティブが働きます。
実務上、書類量やランクによる許可率の差が存在するため、新規校や運営実績が浅い学校は「リスクが高い」と判断され、紹介を得にくい傾向があります。
結果として、募集時点で大きな格差が生まれ、学生確保が最大の課題となる点は新規参入者にとって看過できないリスクです。
リスク④ 人員体制リスク(退職1名で学校が止まる)
日本語学校は、法令により最低限配置しなければならない教職員が明確に定められています。
校長・主任教員は必須であり、さらに学生数に応じて本務等教員や教員を配置する必要があります。
特に新規校では、業務分担や運営フローがまだ確立していないことが多く、一人の負荷が極端に高まりやすい傾向があります。
そのため、校長や主任教員が退職・休職すると学校運営が一気に停滞し、COE書類作成や在籍管理にも影響が及びます。
また、人件費の配分や資格手当が他校と比べて不十分な場合、離職リスクがさらに高まります。
運営の要となる人員が1名欠けるだけで学校が止まる という点は、大きな構造的リスクです。
リスク⑤ 学生トラブルが経営に直結する構造
日本語学校が受け入れる留学生は、日本での生活基盤がない状態で来日するため、住まい・健康・アルバイト・人間関係など、多様なトラブルが学校に集中します。
特に、病気やメンタル不調、勤務トラブル、授業不参加、失踪、在留期限の管理ミスなどは、いずれも学校の在籍管理責任に直結します。
初期対応が遅れたり記録が不十分だった場合、問題在籍者として扱われ、学校ランクやCOEの許可率に影響が及ぶこともあります。
新規校では事務経験者が不足し、対応基準が固まらないまま初年度を迎えるケースも多く、結果的にトラブルが連鎖して経営リスクが増大します。
学生対応力は学校運営の生命線 といえる領域です。
リスク⑥ 行政指導とランク低下のリスク
日本語学校は、適正校であっても在籍管理が不十分であれば、入管からの指導やランクの引き下げが発生するリスクがあります。
ランクは一度取得すれば安泰というものではなく、毎年の在籍状況(失踪、在留期限管理、生活・アルバイト指導、出席率など)を通じて継続的に評価されます。
改善が必要と判断されれば追加資料の提出や説明を求められ、管理体制の不備が続けばクラスⅠからクラスⅡへ、さらには非適正校に転落する可能性もあります。
ランクが下がればCOE申請時の提出書類は増え、許可率にも影響が及び、募集にも大きなマイナスとなります。適正校であっても油断できないのが在籍管理の実務 です。
まとめ
日本語学校は、教育・在留資格制度・国際人材市場・行政監督という4つの領域が重なる、極めて特殊な事業です。
COE審査の構造、学校ランクによる差、学生募集の難易度、人員体制の脆弱さ、学生トラブル対応、行政指導など、経営を揺るがす多様なリスクが常に存在します。
これらは単独で発生するのではなく、相互に連動しながら学校の運営に影響する点が特徴です。したがって、成功の鍵は「制度理解」「運営体制」「リスク管理」をどれだけ早い段階で整えられるかにあります。
日本語学校は決して参入障壁が低い事業ではありませんが、仕組みを正しく理解し準備すれば、社会的意義の高い事業として大きな価値を生み出すことができます。
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